7月は、地域の研究会、「糖尿病と心のケア」研究会も開催され、当科医局員も参加しました。
第6回を迎えた今回は、当院の内分泌糖尿病内科の先生が症例をご発表下さいました。
この研究会の参加者は、内科医師や看護師、栄養士、リハビリスタッフといった糖尿病治療に携わっている医療者がほとんどで、精神科医療者はほんのひとにぎりです。
心理的なケアに留意されながら臨床される、内科の先生方の活発な議論を拝見していて、非常に刺激を受けました。
また、今回は、当院で実習中の他大薬学部の学生さんが参加されていたのも印象的でした。
慢性疾患のセルフケアは、患者さんができて当然のものではなく、どうやって継続していくか医療者も一緒に考えていくことを大事にしていかなければならないと改めて実感しました。
糖尿病とメンタルケアの詳細について興味がおありの方は、下記の過去記事もあわせてご参照ください。
http://www.saitama-mentalclinic.com/blog/?m=201509
カテゴリーアーカイブ: メンタルクリニック
第27回日本サイコネフロロジー研究会(7月9、10日)に参加しました
ADHDについての講演がありました
6月29日に埼玉医大精神科・心療内科の松岡先生が、さいたま市で成人のADHD診療について講演されました。患者さん本人や家族だけでなく、可能ならば学校の先生や職場の人からも話をきき、問診と各種スケールを併用することで、多角的に情報を集めて判断することが大事とのことでした。たいへん分かりやすく勉強になる講演でした。
千葉で日本精神神経学会が開催されました
6月2日から3日間、千葉の幕張にて日本精神神経学会総会が開催され、当医局からも何人かが参加しました。
講演や発表を聴講して勉強することはもちろんですが、昔の職場の同僚にばったり出くわして旧交をあたためたり、同じ分野で活躍する仲間と会って刺激を受けたりするのも、学会参加の楽しみであり、大事な目的だと思います。
学会参加で業務をお休みし、ご迷惑をかけることもあったかと思いますが、そこで得られたものを、また日常の業務に還元していければと思います。
周産期メンタルヘルス研究会、リエゾンにかかわる精神科医と心理職の会
5月、当医局医師からの講演と事例報告が行われました。
第2回を迎えた周産期メンタルヘルス研究会は、地域の病院の医師や助産師、看護師、保健師など地域の母子を支える専門職が集まって連携や症例を検討する会です。今回、当科からも精神科医師と心理士が参加し、医師が講演を行いました。当院の総合周産期母子医療センターと当科メンタルクリニックの連携報告、今後の地域連携についての展開についてのお話がありました。
また、第21回リエゾンにかかわる精神科医と心理職の会においても、当科医師が事例報告を致しました。この会は、リエゾンコンサルテーションサービスにかかわっている精神科医と心理職が集まって症例を検討し、精神的問題についての介入や多職種連携についての検討が行われています。今回、当科からの事例報告は、多職種、そして他の診療科やチームの協働について考察される症例でした。
どちらもフロアからの活発な討議もいただき、日々の臨床を振り返ることの意義をまた改めて感じました。今後もこうした活動も大切に取り組んでいきたいと思います。
埼玉医科大学総合医療センター メンタルクリニックの『緩和ケア』
日本では、がんは死亡原因の第1位で、3人に1人ががんで死亡し、2人に1人ががんになっています。
高齢化に伴いより、がんの患者数は増加する傾向にあります。がん患者さんは、がん自体の症状の他に、痛み、倦怠感などの様々な身体症状や、抑うつ、悲しみなどの精神的な苦痛、経済的な問題や家庭での役割喪失などの社会的苦痛、生きる価値や意味を見いだせないといった「スピリチュアル・ペイン」を経験することがあります。
「緩和ケア」では、がんと診断されたときから、治療後まですべての時期において、これらの苦痛を和らげ、患者さんやご家族のQOL(Quality of Life;生活/生命の質)を向上させるための治療・ケアを提供します。緩和ケアは、様々な症状、苦痛に対応するため、医師・看護師・薬剤師・栄養士・臨床心理士・リハビリテーションスタッフ・医療ソーシャルワーカーなど、多職種のチームで行われ、定期的なカンファレンスが開かれています。
われわれメンタルクリニックでは、精神科医、精神看護専門看護師、臨床心理士が、緩和ケアチームに加わり、がん患者さんの精神症状の対応、自殺企図・自殺予防に向けた取り組み、鎮静を含めた終末期の問題や、意思決定能力の判断などの倫理的問題への対応、家族・遺族ケア、意思決定支援を含む医療者・患者間のコミュニケーション支援など、多岐にわたる重要な役割を担っています。
緩和ケアチーム診療加算要件には、常勤精神科医師の存在が必須です。また、緩和ケアが広く普及していくとともに、がん患者さんやご家族の精神心理的な苦痛への対応の要望も高まっていて、総合病院精神科診療において緩和ケアの重要性は増大してきています。
サイコネフロロジー
サイコネフロロジー(psychonephrology)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「psycho=精神医学、nephrology=腎臓病学」という言葉の通り、腎疾患に関係する精神医学の一分野で、コンサルテーション・リエゾン精神医学(consultation-liaison psychiatry)のうち、腎不全や透析、腎移植などに関わる部分を言います。
ご存じのとおり腎疾患患者さんは、その病気の進行に伴い透析や腎移植、そのほか治療に関する多数のストレスに直面することになり、これらは精神疾患やさまざまな問題を引き起こす原因となります。腎疾患患者の心理と行動、さらに患者さんの生活の負担や生き方と死の問題などを重視し、それらに関する臨床、研究などを行っていく分野がサイコネフロロジーなのです。
海外では、透析患者の中で「強い抑うつ症状」を持つと判定される人の頻度は、15~16%と言われています。しかし、当科が行った日本における不安・抑うつの実情調査では、大うつ病2.9%、不安障害5.8%と、諸外国と比べて頻度が低い結果が出ました。このような外国との相違は重要であり、日本と欧米では一般的な文化的特徴が異なるばかりではなく、透析患者の医学的特性、透析の実施方法なども異なっていることが理由として考えられています。
また、日本の透析患者の特徴として冠動脈疾患や脳血管疾患が少なく、生命予後が欧米と比較して良好であること、医師による診療回数が多いことなども報告されており、日本の透析医療の優れている点が明らかにされています。当科では、以上のようなサイコネフロロジーに関する研究、教育を行っています。
糖尿病療養に対する心理的・行動科学的支援の実践
糖尿病は、苦痛と生活の制約を伴う代表的な慢性疾患のひとつであり、患者さんには様々な心理的・行動的問題が起こります。当科では、内分泌・糖尿病内科と協働しながら、糖尿病療養における心理的ケアの取り組み(「健康カウンセリング」と呼んでいます)を行っています。
■糖尿病の療養における心理的ケアの必要性
糖尿病療養は、患者さんに大きな心理的な負荷がかかり、抑うつ、不安、怒り、動揺などの心理的反応につながりやすくなることが指摘されています。糖尿病の状態が良好に維持されていても、日々のセルフケア(食事療法、運動療法、服薬アドヒアランスの維持)の継続自体も、患者さんにとっては強いストレスとなり得ます。
また、糖尿病と精神疾患の併存(特にうつ病)については多くの報告があり、それらがセルフケア行動の減少などにつながりやすくなります。さらに、病気以外の日常生活におけるストレスが、療養行動にネガティブな影響を与えることも少なくありません(図)。
このように、糖尿病が患者さんの精神状態に与える影響と、患者さんの精神状態が糖尿病治療に与える影響の双方向性が考えられ、心理的なケアが必要となります。「糖尿病に対してどのような気持ちや苦痛があるのか」、「病気や治療が生活にどのような影響や支障を与えているのか」などを教えてもらいながら、気持ちや生活に沿った療養の相談を行っています。
■糖尿病療養に行動科学を生かす
また、他の病気の治療に比して、糖尿病療養では患者さん自身に求められることが格段に多いのもひとつの特徴です。
私たちは患者さんに、主に
①食事療法(例:野菜を食べる)、
②運動療法(例:ウォーキングする)、
③薬物療法のアドヒアランス(例:注射を打つ)
の3つへの取り組みを望んでいます。
すなわち、これらはすべてが“行動”であるという共通点を持ち、医療者は患者さんに新たな“行動”が生起し、維持されることを期待しています。
我々人間は、日々行動の選択をしていますが、その選択には、そのときの環境や身体感覚、気持ち、考えが影響を与えています。したがって、適切な行動選択の頻度を高めるためには、この行動の周辺要因のアセスメントをすることが有用であり、こうした分析とそれによる治療を可能にするのが、行動科学に基づく認知行動療法です。
当科では、行動科学的視点から目標とする行動について患者さんと一緒に振り返り、療養行動がより取り組みやすいものになるよう相談を行っています。